公益財団法人カシオ科学振興財団

イベント情報

第43回(令和7年度)研究助成金贈呈式 2025年12月5日

12月5日(金)、公益財団法人カシオ科学振興財団は、カシオ計算機株式会社カシオホールにおいて、第43回(令和7年度)研究助成金贈呈式を行い、120大学289件の応募の中から、57件の研究に対し計8,900万円を助成しました。

贈呈式の様子(1)

贈呈式では冒頭に理事長 樫尾 隆司より、応募総数が昨年を上回る289件となり、選考委員による厳正な審査を経て57名の助成対象者が決定した旨が述べられました。続いて、創業者である四兄弟がリレー式計算機開発で資金面の困難を経験したことを背景に、次代を担う萌芽的研究を支えるべく1982年に財団を発足させた設立経緯が紹介され、これまで延べ1,762件・総額約23億7千万円の助成実績に触れました。また、本年度のノーベル賞で坂口志文先生(生理学・医学賞)と北川進先生(化学賞)が受賞されたことを挙げ、長年の探究の積み重ねが世界に認められた喜ばしい成果であると強調されました。これらの研究が仮説と検証を粘り強く重ねる地道な過程の延長線上にあること、研究の本質は長期的な追究にあることが示されました。
さらに、日本の研究の強みとして「本当に解くべき問い」に向き合い基礎を掘り下げる文化に言及し、当財団が若手による先駆的・萌芽的研究の挑戦を支えるという助成趣旨を改めて確認されました。一方で、研究費獲得競争や短期評価の圧力、支援体制や事務負担など、現在の研究者の足元の課題にも触れ、だからこそ本日の助成が将来の大きな価値へつながる種であるとの意義が述べられました。財団としても、目先の成果や流行に左右されない長期的視点の選考と支援を徹底するべく運営を不断に見直し、改善を続けていくことを表明し、研究者の皆様の挑戦にエールを送って挨拶を締めくくられました。

贈呈式の様子(2)
贈呈式 挨拶 樫尾 隆司 理事長

続いて今回助成を受けられた57名の研究者の方々が順に紹介された後、選考委員を代表して慶應義塾大学名誉教授 笹瀬 巌先生が選考総評を述べました。

助成対象者の皆様への祝辞の後、今年度は特別テーマを設けず基本助成を充実させる改革方針のもとでの全国217校への推薦依頼となったことが報告されました。募集は昨年同様、A系(電気・機械)147件、B系(電子工学と医学/生理学の学際)88件、C系(人文科学)54件の3系で行い、金額枠は基本助成1(100万円)179件、基本助成2(300万円)110件でした。財団の助成趣旨である「若手研究者による萌芽的な段階にある先駆的・独創的研究を重点的に選定する」方針に基づき、公正かつ厳正な審査を実施した結果、採択は計57件、採択率約19.7%(倍率5.07)、助成総額8,900万円となりました。系別ではA系28件(倍率5.25)、B系18件(4.89)、C系11件(4.91)、金額別では基本助成1が41件(倍率4.37)、基本助成2が16件(倍率6.88)となったこと、若手(20~30代)の応募割合が28%(40代は40%)であり、採択割合は各系で36~57%と若手支援の方針が反映されていることが述べられた。また、女性研究者の申請比率はA系の申請が多かった影響で国内平均よりやや低めでしたが、採択では年度ごとに女性比率が上昇し改善が進んでいる旨が示されました。

選考総評 慶應義塾大学 笹瀬 巌 先生

最後に、先生ご自身が若手期に国際会議発表の機会を得た自身の経験に触れ、研究助成金が研究者育成と挑戦の原動力になること、そして採択に至らなかった提案にも素晴らしい内容が多数あり、本日ご参集の皆さまには、ぜひその分も含めて研究をさらに発展させていただきたいと願っていることを強調されました。最後に、今回の助成が皆様の研究の飛躍のきっかけとなり、社会に貢献する成果へつながることを期待する旨が述べられ、総評が締めくくられました。

引き続き理事長より受領者を代表して、九州大学 飯森 陸 先生へ研究助成金贈呈状の授与が行われました。

贈呈状授与
代表受領者 九州大学 飯森 陸 先生

その後、受領者を代表して、東京科学大学 堀 真緒 先生と、北海道大学 竹井 邦晴先生の2名より挨拶がありました。

受領者代表挨拶 堀 真緒 先生

受領者代表挨拶 東京科学大学 堀 真緒 先生
採択テーマ:「非脂質性mRNA医薬品の高効率製造に向けた新規マイクロ流体デバイスの開発」 工学・材料科学の立場から薬物送達(DDS)に取り組んできた経緯を述べ、脂質ナノ粒子(LNP)の課題(炎症惹起性や標的指向性の不足、肝臓への偏在など)を踏まえた「非脂質性mRNA医薬に向けたタンパク質カプセルの調製」と、マイクロ流体デバイスによる高再現なナノ粒子作製基盤の確立に挑む研究構想を紹介されました。
学生時代に経験した攪拌法の再現性限界を出発点に、センサ・デバイス分野との交流を通じて、着想を再起し、共同体制を得たことに触れ、合成高分子からタンパク質・核酸へ対象を拡げつつ、mRNAはワクチンにとどまらず多様な疾患治療へ応用可能なモダリティであり、水溶性高分子のみからなるナノ粒子をデバイスで安定に調製できれば、試料ばらつきの低減と非脂質性キャリア開発を大きく前進させ、医薬品の安全性・有効性向上に資すると述べられました。小講座制の助教としてPIに近い裁量を得つつも、タンパク質・核酸調製やナノ粒子解析など設備整備の負担や物価高騰によるコスト増に直面しており、萌芽的研究に対する本助成の意義は極めて大きいと強調されました。
最後に、財団関係者・選考委員への謝意を表するとともに、頂いた支援を成果と国際発信に確実に結びつけ、我が国の科学技術と医療の発展に一層寄与していく決意を述べられました。

受領者代表挨拶 竹井 邦晴 先生

受領者代表挨拶 北海道大学 竹井 邦晴 先生
採択テーマ:「機械学習を導入した透明な伸縮性電子皮膚デバイスの開発」
研究助成者代表として、財団関係者・選考委員への謝意を述べた上で、北海道大学へ異動後に新分野開拓型の提案が資金面で難しかった経緯に触れ、本助成が将来性を評価して採択されたことへの感謝を示されました。専門は無機ナノ材料を用いた柔軟電子デバイスで、センサ信号にリザバーコンピューターを融合してスマートセンサ・低消費電力エッジAIを目指す研究を展開。応用は健康管理、ロボット用電子皮膚、植物モニタリングなど多岐にわたり、今回の助成では水を主成分とする高柔軟・高生体親和のハイドロゲルを用いて、高い空間分解能とシンプルな配線を両立する電子皮膚の実証を目標とすること、配線増大の課題に対しリザバーコンピューティングで削減を図る方針が紹介されました。
今後は材料設計・組成調整により温度・曲げ計測や発電機能への展開も視野に、ケンブリッジ大学との共同研究を開始し、博士課程学生の派遣も計画していることに言及。物価・人件費の高騰や研究費減少など厳しい環境の中で、本助成が若手の挑戦を後押しする大きな支えであると強調し、いただいた支援を確実な成果と国内外への発信につなげ、スマートセンサやロボット用電子皮膚の実現に貢献していく決意を述べて挨拶を締めくくられました。

助成金受領者 記念撮影

懇親会

贈呈会に引き続き懇親会となり、当財団の理事であるカシオ計算機株式会社 取締役会長 樫尾 和宏よりの挨拶の後、理事の電気通信大学 名誉教授 木村 忠正先生による乾杯のご発声のもと、和やかな雰囲気で参加者全員が交流され、多くの研究者が懇親を深めました。

懇親会挨拶 樫尾 和宏 理事
乾杯挨拶 木村 忠正 理事
懇親会風景(1)
懇親会風景(2)